医師・看護師の増員と地域医療計画見直し求め厚労省へ再要請
新型コロナとたたかう医療・介護・保健所の現場を守る政策を
いのちまもる緊急行動は8月20日、厚労省への再要請を行いました。6月25日に行った三原厚生労働副大臣要請2項目「保健所の拡充措置、医師・看護師等の拡充・増員計画を示すこと」「公立・公的病院の再編統合計画を撤回し、公立・公的病院の拡充計画を示すこと」への厚労省回答(7/7付)に対するものです。
冒頭、黒澤幸一事務局長(全労連事務局長)は、「(増員要求に対する7/7付厚労省回答は)コロナの感染が爆発的に広がって、医療・介護・保健所が崩壊状態にある中で、緊張感のある回答とは思えない」と指摘。保団連の住江会長も「問題は偏在ではなく、医師不足」と強調するとともに「診療所への財政補助は感染防止対策のみで、経営支援になりえない」と指摘。医師増員と診療所への経営支援を求めました。日本医労連の森田書記長は「医師数についてすぐにでもOECD平均にして、パンデミックに対応できる余裕を持たせよ」「入院ベッドを90%以上稼働しなければ経営的に苦しくなるような診療報酬を変えるべき」など求めました。是枝事務局次長は、地域医療構想の「ベッド削減給付金は2026年3月31日までのベッド削減計画に対して出すことになっている。 コロナ対応で大変な時にやることではない」と指摘。介護現場の実態も訴えました。
今回の要請項目と議論の概要は以下の通りです。要請に参加したのは、保団連・住江憲勇会長と工藤光輝事務局次長、中央社保協・是枝一成事務局次長、医労連・森田進書記長、新医協・利根川さん、全労連・黒澤幸一事務局長、全労連前田博史副議長、寺園通江常任幹事、事務局でした(まとめて「緊急行動」と表記)。
<要請の概要>
(1)保健所の拡充措置、医師・看護師・介護職等の増員について、コロナ禍以前の政策、計画に基づいたものである。以下の通り要請する。
①医師の地域偏在、科別偏在の是正、医師労働の改善のために医師数をOECD平均まで増員すること
②医師の働き方の是正に当たり、過労死水準を超える施策について再考すること
③新型コロナ感染拡大とたたかう医療機関、介護関連事業所の経営を守り、職員を大幅増員すること
④医療・介護等の現場で働くエッセンシャルワーカーに対して、国の責任で、一律の慰労金などの措置を講じること
①、②:緊急行動は、医師の年間1800時間以上の長時間労働を是正する必要があること、需給推計が根拠にしている働き方はかなり長時間の働き方であることを指摘した。しかし、厚労省は、需給推計が基にしている労働時間基準の高さに対しては批判があると認めつつも、これまで青天井だった労働時間を把握するようになった点を評価するにとどまった。
③:厚労省は、第二次補正予算でコロナ対応を行った医療機関への一時金を20万円支給したが、昨年7月以降の再支給予定はないと断言した。また、職員増員は厚労省も課題と認識しており介護の魅力発信などの政策を発信中とのことであったが、コロナ感染拡大のなか緊急に対策を打つという緊張感が感じられない回答であった。
また緊急行動は、診療報酬について、大幅改定を行うというものの全く大幅と思えず、そもそも平時から病床を90%以上稼働させないと経営が成り立たない仕組み自体おかしく、余力を持たせた診療報酬にすべきと訴えた。それに対し厚労省は、来年度改定に向けて中央社会保障協議会で診療報酬改定の議論が始まっており、コロナ禍でどんな診療が行われているか調査中とのことであった。コロナ対応を行う医療機関の経営を守るための具体的な対応策は出てこなかった。
◎厚労省は「今回のような新興感染症に機動的に対応するのは必要と思っており、必要な医療が提供できるような体制を確保するよう厚労省として進めていきたい」と抽象的な理念を述べるにとどまり、コロナ禍以前に作られた政策、政策を見直す必要があることは認めなかった。
④昨年度はコロナ対応が医療従事者にとり未経験であったため慰労金を支給したが、今は既に経験が蓄積されていることを理由として、厚労省は慰労金の再支給を拒否した。
(2)ベッドの削減、病院の統廃合を推進する「地域医療構想」そのものが、医療体制の充実、地域医療確保などに逆行する内容であり、見直しが求められる。以下の通り要請する。
①公立・公的病院の統廃合計画を直ちに中止すること
②「地域医療構想」の策定で病床数の削減を都道府県に押し付けるのでなく、必要な病床数の確保、地域における安全・安心の医療体制を確保すること
③医療費削減を目的とした「医療費適正化計画」の作成を都道府県に義務付けないこと
④診療報酬による病床削減、および病床機能再編をやめること
①:厚労省は、高齢化の進展の中で医療提供体制のミスマッチ(回復期病棟が少なく急性期病棟が多いなど)があり、医療需要を推計して地域ごとに必要な医療体制を出したものであり、たんに病院の統廃合やベッド削減などを求めたものではない、地域で議論を尽くしてもらいたいとした。
②:緊急行動は、地域医療構想はパンデミック前に作られた計画であり、それを今変える必要があると厚労省は認識しているか問うたが、地域医療構想は将来の人口変化を見据えての計画でありその計画は変えないとの回答であった。そして、厚労省は、新型感染症に機動的に対応することは必要と言いながらも、地域医療構想の変更する予定はないという態度であった。
そのうえで厚労省は、「地域医療構想」は単に病床削減を求めているものではなく、地域ごとに医療需要に応じた体制をとってもらうものだとし、地域によっては病床を増やしていただくこともありうると述べた。しかしその後、各都道府県が病院、病床の増加を決められるものではなく、人口が増える都市部では医療需要が増えるので、病院・病床を増やすことも可能という意味であり、地方が自由に増やせるものではないという答弁にくつがえった。
また、緊急行動は、地域医療構想は中長期的な議論だと厚労省は言うが、2026年3月末までにベッドを削減する計画を出せ、それに対して給付金を出すという制度であって、厚労省はコロナ禍の中で給付金申請を急がせているではないかという指摘した。
③:厚労省は、医療費の見直しはむやみに行われるべきではなく、良質かつ適正な医療を目指すものにしなければならないという理念は認めた。しかし、緊急行動側は、受診回数抑制をどの都道府県でも掲げており、結局数字で判断しており言っていることとやっていることが違うと抗議した。
④:厚労省は、診療報酬による医療費削減は行っておらず、診療実績に応じた評価体制であるとした。効果的に質の高い医療が提供されるよう取り組んでいきたいと述べた。質の高い医療とはどういう水準を言っているのか問いただしたが、「必要な方に必要な医療が提供される医療」という回答しか得られなかった。
◎パンデミックでフェーズが変わったことをどう認識するのか問いただしたが、推計当初とは状況が変わっていることは認識しているとの回答であった。しかし、それにもかかわらず今後の人口構造推計には変化がないとして地域医療構想は撤回しなかった。とはいえ、今後の医療提供体制については、今後の医療提供体制、新型感染症発生時にどうするかをふまえ、検討会などを立ち上げて議論を始めたところとのことであった。
◎厚労省は「必要な時には機動的な医療提供体制を作る」として、「機動的」の意味は、感染症にさいしてマンパワー・病床を感染症対応に振り分けたり即座に患者を受け入れたりすることだとした。しかし、平時から9割のベッドを埋めていないと経営が成り立たない状態の中、感染症が起きて突然機動的にといわれても無理で、人員をそろえるにも何年もかかることを緊急行動は指摘した。
◎今回交渉に参加した厚労省側参加者からは、要請をふまえての具体的な対応策が得られなかったため、最終的な決定権者はだれか問いただしたが、最終的に政策を決めているのは厚労省なので厚労省にご要望くださいとのことであった。
(3)さらなる医療提供体制・公衆衛生体制や公務公共サービスの拡充をはじめとした、国民のいのちと暮らしを優先した社会保障政策、社会保障財源の確保が求められる。以下の通り要請する。
①社会保障制度の抑制・削減ではなく、社会保障予算を大幅に増額すること
②社会保険料を懊悩負担の制度に改善し、中小企業の負担を軽減し、大規模災害時などは国の財政支援で減免制度を実施すること
③「医療を年齢で差別する」後期高齢者医療制度を見直し、2021年6月に成立した75歳以上医療費窓口負担2割化の2022年後半の実施は見送ること
④「骨太方針2021」をふまえ、当面「全国加重1,000円」実現に向けて、必要な実効性ある中小企業への施策を伴う財源措置を講じること。拡大する地域間格差の解消に向け、「全国一律最低賃金1,500円」を早期に実現すること
◎厚労省は、全ての人が安心できる社会保障に向けて尽力してきた、使命として国民目線に立って社会保障充実、生活を守ることを第一に考えなければならないのはおっしゃる通りと回答した。
緊急行動からは、コロナ禍で社会保障の脆弱性を改善すべきという意見がとても多いこと、厚労省が同じ立場に立って守ってくれないと全然改善されないこと、介護職にコロナ対応の負担をかけていることだけでも、これまでにない給付をすることが求められることなどを強く申し入れた。
今回の要請を経て、想定していた以上に厚労省の姿勢が堅かったため、もう一度要請を組むことを検討しています。地域医療構想はコロナパンデミックより前に作られた、人口減少を念頭に置いた構想であるため、パンデミックに対応した内容に変えさせる再要請を行うことが必要です。